Hallicrafters SX-28 (その2)

経緯

リストア後のチェックは安全のため、スライダックでAC60Volt 程度からスタートしました。
Band-1 (550kc~1600kc) に設定し、通電したところ、RF部から白煙がでました。
ここで止めればよいものをBnad-2 ( 1.6~3MHz)、Band-3 (3.0~5.8MHz) と切り替え、同じように白煙を上げてしまいました。 
ここで初めて、電源を切りましたが手遅れでした。

原因

局部発振回路 V4 への結線間違いと判明しました。 
V4廻りのRFの第4室を取り外す際に、V4のPin6の結線を、Pin7と勘違いし、実体配線図に記入してしまったため、再組のときもPin7に接続したため、真空管のヒータ電源がコイルに負荷されてしまったことが原因でした。
真空管のPin7はヒータというのは常識であるのに、チョンボとはこういうものかも知れません。

コイルの巻き直し
 焼き切れたコイルのインダクタンスが不明なため、該当する発振回路をNational Instruments社のMultisimという回路シミュレーションで共振周波数を計算し、各コイルのインダクタンスを推定しました。
 また、焼け切れたといっても、線径や巻き数は判読できるので、これらも参考にエナメル線で巻き直しました(2013年3月12日 再組終了)。

再生成功
 再度組み付け通電しましたが、ハム音すらせず途方に暮れましたが、V1~V4の差し違えと判明。
正規の位置に刺し直すと、AM局が受信できました。 やれやれです。
この時の喜びがあるので修理は止められません。
リストア開始から、正味期間として約1.5ヶ月を要しました。
細かな調整は次のステップでやる予定です(厄介な機種で疲れました)。

局発コイルの巻き直し
左図はSW8-11はBand-1の位置です。 
この場合、本来V4 Pin6へ行くべき結線がPin7に繋がると赤い線のようにヒータ電圧が掛かることになり、コイルのアースとタッピンング間のコイルに電流が流れます。

このため線径によっては焼け切れて当然です。
幸いBand-1用のコイルT25は線径が少し太かったので焼損は免れました
インダクタンスを測定すると 110μHでした。
これはシミュレーション計算とよく合います

コイルの端子間の実測インダクタンスは
下記の通りです。              
 1―2: 6.3μH
 2-3: 72.7μH
 1-3: 110μH

これはBand-2のT26コイルです。
コーティング剤、エナメルも焼け銅線がむき出しで、断線しています。  
細い線径ゆえ焼け切れました。
T26の実測寸法は下記の通りです。
  ・ボビン外径:φ16
  ・巻き数: 7+29
  ・コイル長: 5.0mm
コアのないコイルなら、計算上は27μH
fnのシミュレーション計算からは35μH
どちらを狙って巻き直すか迷うところであるが実測の寸法に合わせ、φ0.14のエナメル線でトータル
n=36巻きとすることにしました。

   巻き直したコイルの実測値は
     1-2: 3.42μH
     2-3: 22.84μH
     1-3: 35.01μH

Band-3のT27コイルです。
T27のタッピング点は2ヵ所で回路図とは異なっています。
第一タッピング点とアースの間の絹巻き線が焼けています。
T27の実測寸法は下記の通りです。
  ・ボビン外径:φ16
  ・巻き数: 7.5+5.5+12
合計25巻き
  ・コイル長: 7.2mm

fnのシミュレーション計算からは10μH
巻き直しはφ0.3のエナメル線(UEW)を使い全巻き数n=25としました。
巻き直した結果の実測インダクタンスは次の通りです。
   1-3: 12.03μH
   1-2: 1.66μH
   1-4: 3.97μH
   2-4: 0.92μH
   2-3: 7.42μH
   4-3: 4.47μH

巻き直したT26をもとに戻しました。

焼損前のオリジナルの状態です。

巻き直したT27を取り付けました。

焼損前のオリジナル状態です。

共振周波数の計算とコイルのインダクタンス
焼損したコイルのインダクタンスが不明のため、共振周波数から必要なインダクタンスを回路シミュレーションで推定しました。
計算にはNational Instruments の Multisimを用いました。

V4のPin5に繋がるHF Oscillator部をそのままシミュレートしました。
この図はBand-1でT25=110μH としています。           
共振のきっかけとなる入力として、1kHzの方形波を入れています。 
ただし、R66は減衰を減らすため結線していません。C1, C2のバリコンは SX-28Aの回路図の値を使用。
C1: 16.3~187.5pF
C2: 21.5~250pF
C98: 4~25pF     
C12:max 541pF    
C13: 5pF        
C69:47pF        
Band-1の場合、共振周波数は 1.005MHz~2.055MHz
(1.005MHzはC1, C2がMaxのとき)
トリマを上図の値にし、T25=110μHのとき、fn= 1.003~2.045MHz
T25=109μHのとき、fn= 1.007~2.055MHz
厳密に1.005~2.055MHzに調整するのはシミュレーション上でも難しいので実機ではこれ以上に難しいのではないかと想像されます。   
同じようにBand-2, Band-3についてシミュレートして、コイルのインダクタンスを求めた結果、次のようになりました。
T25=110μH
T26= 35μH
T27= 10μH
トリマーの調整と共振周波数
Band-1を例にトリマコンデンサが共振周波数に
影響するかをシミュレーションで調べました。

再組立てに際しては、前回気になるところも直しました。
  1.SEND-RECEIVE switch (SW4) の接触不良。 switchを新品に交換。
  2.RF Gain のボリューム(500kΩ)  ガリが激しいため、新品に交換
再度組み付け、念のためマニュアルにある各真空管 のPinの抵抗値を測定しました。 
必ずしもマニュアル通りの値ではありませんが、致命的な誤配線はないようなので通電しました。 
AM 729kc(NHK)が聞こえました。  万歳です。
抵抗測定値のリストを resistance_value.pdf に示します。

Phil’s old Radio  ( http://antiqueradio.org/halli12.htm ) 
  RF部の分解手順が大変参考になりました。
SX-28のマニュアル
  SX28-mil.pdf — SX-28の取説 (http://bama.edebris.com/manuals/hallicra/sx28mil/)。
  SX28old.pdf —- SX-28の取説 (http://bama.edebris.com/manuals/hallicra/sx28old/)。
  TM11-874.pdf (1944年)— SX-28Aの取説、回路図(入手元を忘れました)。